NAOKI
早稲田大学写真部 吉川直輝 写真は高校の時から始めて、かれこれ5年が経ちました。 前は日常の記録をいかにドラマチックに撮るかにこだわっていましたが、最近は空や風景といった自然にカメラを向けることが多いです。
NAOKIの使用カメラ
アールイーカメラさんからカメラをお借りして試すことができるというこの企画を知り、私は悩んだ。
ミラーレス機を持っていないので、勉強がてら使ってみるか?
それともライカを試してスナップの修行をするべきか?
しかし私にとって、写真は趣味である。仕事ではない。
なので「〜すべき」ではなく「〜したい」という気持ちを大切にしよう。
では、私は何をしたいのか? 自身の心に問うた。
「質感を感じる写真を撮りたい!!」
そのとき、一つの選択肢がよぎる。SIGMA が長年発売し続けてきた、Foveon センサーを搭載した機種群である。
Foveon センサーとは、1ピクセルで光の三原色すべてを捉えることができるイメージセンサーだ。
理論上、この Foveon を採用したデジタルカメラは、通常の機種に比べて現実に近い豊かな色情報を得られる。
そのため、質感描写に優れているという声もある。
とはいえ、現実はそう甘くない。
Foveon を搭載したカメラには特有の弱点があり、運用面での制約も多い(詳細は後述する)。
そのためユーザーは多くなく、通常のレンタルで出回るようなカメラではない。
試す機会が少ない機種なのだ。
そこで今回は、アールイーカメラさんから Foveon 機を借りることにした。
さっそくカメラを借りるために、アールイーカメラに行ってみた。
御徒町の店舗では、店員さんとフレンドリーにお話ができる雰囲気だ。
カメラ屋には、淡々とテキパキ正確に対応するスタイルのお店もあるが、このお店は相談したり、気軽にお話しながら売り買いができるというスタイル。
私もカメラを借りる際に状態の説明などを丁寧にしていただいたので、安心してレンタルを始めることができた!
今回借りたカメラは、SIGMA が 2013年に発売したコンパクトデジタルカメラ「DP3 Merrill」である。
APS-C サイズの Foveon X3 センサーに 50mm F2.8 の単焦点レンズを搭載し、フルサイズ換算約 75mm の中望遠の画角で撮影できる。
総画素数は RGB の三色だと 4800 万画素になり、実際には 4,704×3,136px(約 1500 万画素)の画像が出力される。
カメラ本体は一眼と比べるとスリムだが、レンズが出っ張っており、ポケットに入れて持ち運ぶのは難しいサイズ感。
操作は右手で完結するように設計されており、Mモード設定時に設定画面をさかのぼらずに、ボタンとダイヤル操作の組み合わせで露出を制御できる点は便利だ。
ボディは金属製でずっしりしていて高級感がある。
ボタンの押し心地や、側面のUSBジャックの蓋が「パタン」と閉まる感覚はとても良いと感じた(一般的にはゴム製でふにゃふにゃしていることが多い)。
ボディの完成度は間違いなく高い。
アールイーカメラで DP3 Merrill を借りて、さっそく試し撮りに行くことにした。
新宿御苑を散歩する。
逆光の作例。フレアの色が独特!そしてハイライトが盛大に飛んでしまった。逆光での撮影は苦手なようだ…
温室で花を撮ってみる。ISO 感度を 400 に設定。拡大するとノイズがかなり目立つ。
シャドウの締まりも少し弱いかもしれない。高感度も ISO200 以上は厳しい場面が多い印象。
なかなかピーキーなカメラだなぁ。フォビオンを使いこなすのは難しいのか..?
腕時計の金属と葉っぱを映してみる。このカメラ独特の質感、伝わるだろうか? 透明感のある写りだ。芝の葉にある細かい毛の存在に、この写真を撮った時に初めて気がつく。 コンデジなのに写りすぎだ!!
さて別日、私は都心の猛暑で蓄積した疲れを癒すべく、DP3 Merrill と共にママチャリでサイクリングに出かけた。
今度こそ、低感度で本機の強みを発揮するときだ!!
向日葵とミツバチ。SIGMA の純正ソフトで RAW 現像し、コントラストや色を調整しているが、
とても活き活きとした濃厚な色を出せる。これぞ、フォビオンの質感表現!!
これは JPEG 撮って出し。蜜蜂に接近して撮影してみる。マクロは 22.6cm まで寄れる。
一般的な APS-C キットレンズより少し寄れるという印象。ボケも柔らかめに感じる。
前の写真を拡大してみた。蜂の羽の質感がとても良いと思う。背景と蜂の境目が拡大してもはっきりしすぎず、輪郭が自然に見える。フィルムで撮影したときの感覚に近いかもしれない。
「FOV Classic」というカラーモードを試してみる。少し雲がかかった状態で撮るとこんな感じ。
鉄道写真。拡大してみると電車の車体のたわみがしっかり写っている。
色の深みがあり、普通のデジタル写真とは一味違う印象。
なお高性能な追尾AFなどは搭載していないため、MFで置きピンしてからの撮影。
動きものは天気の良い日に一撃で仕留める覚悟が必要だ。
夏祭りでの夕空。透き通るような感じ。色情報の豊かさから、細かい質感が写真全体に独特な雰囲気を醸し出している。
手持ち夜景。といっても ISO400。これ以上は画質が破綻する。
左側の電球の光が綺麗な形をしている。このカメラ、やはり細かいところの質感表現が面白い。
DP3 Merrill はフィルムカメラのような繊細な運用を必要とするカメラだ。
高感度や AF の速さ、書き込み速度、バッテリーの持ちといった素早くスナップするための機能は弱い。
構造上高画素機なので微ブレにも弱く、その繊細さをケアする運用が求められる。
性能を最大限に引き出すためには、三脚やフィルターといった道具を使いこなし、50MB ほどのRAWデータを SIGMA の専用ソフトで編集する必要がある。
時間も労力もかかるが、その先には圧倒的な写りが待っている。
現在のデジタルカメラでは撮れないような絵が出てくる。
1ピクセルあたりの膨大な情報量から、カミソリのように被写体を繊細に切り取れるのに、シャープネスを効かせた感じがしない、独特の写真が撮れるのだ。
今回作例を掲載しなかったが、人物を撮影した際の唇や肌のうるおいがとてもよく表現されていた。
このカメラで赤ちゃんや小さな子供の成長記録を撮れば、その写真は一生の資産になると感じている。
顔認識 AF も搭載し、ホットシューもあるため、ストロボを用いた人物写真も撮れる。
準備を重ね、腰を据えて撮影する用途に適した、小さな中判カメラといったところだろうか。
ぜひ、“本気”で向き合いたい素敵な被写体を、この DP3 Merrill で残してみてほしい。
やる気のある人に応えてくれるカメラだ。