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2024年8月、僕は20歳になった。正直、まだ20という数字にしっくりきていない。
それでも時間はみるみるうちに流れていき、気づいた頃には僕自身も大きく変わっているのかもしれない。
旅に出たかった。20歳の僕が見たもの、感情を記録しておきたかった。うまく言葉にできない感情も、写真でなら素直に、さりげなく表現できるのではないかと思った。
今回貸していただいたLeica Q2は旅に最適な一台だと感じた。軽量コンパクトだから小さめの鞄にもすんなり収まり、気軽に取り出せる。
それでいて、フルサイズセンサーと開放F値がF1.7の明るいレンズを搭載しており、非常に高性能だ。
そしてなんといってもあのLeicaだ。数字では表せない「撮る愉しみ」がある。
シンプルでありながら重厚感のあるボディー。ダイヤルを回した時の手応え。
起動時に表示される「Leica」の赤いロゴ。そのどれもが撮るという行為に喜びを感じさせてくれる仕掛けに見える。
このカメラを持って、僕は北海道・函館へ向かった。
北海道の夏は短い。9月の頭、函館はすでにひんやりとした風が吹き、どこか寂しげな光が注
いでいた。路面電車の車内からとった一枚。
何気ない一瞬だ。旅に出るとこんな日常風景も特別に見えてくる。ショルダーバッグからさっと取り出し、片手で撮る。Leica Q2の少し暖色寄りの写りは昼前の車窓を優しく記録してくれる。
このカメラはAF性能も良い。
もちろんマニュアルでピントを合わせることもLeicaを使う醍醐味であるが、やはり旅行の時はAFが頼りになる。
金森赤レンガ倉庫周辺を歩く。港町は坂が多い。海のすぐ近くに山や高台があり、海に向かって急激に落ち込む地形は、沿岸でも水深を確保しやすく港の整備がしやすい。
長い長い坂を自転車に乗った高校生たちが降りていく。歳はそう変わらないはずだ。
けれど、もう戻ることのない輝きが彼らにはあるように見える。少し、羨ましい。
喫茶店に入り、クリームソーダを注文する。このカメラには最短撮影距離17cmのマクロモードが搭載されている。レンズの根本部分を回し、ぐっと寄ってみる。
被写体の質感を繊細に、美しく描写してくれる。コップから半分くらい顔を出したような格好のアイスクリームは優しい甘みがあり、9月の午後にとても良く合っていた。
夕食は函館のハンバーガーチェーン「ラッキーピエロ」へ。
後から聞いたのだが、僕の両親も20代の頃、この店を訪れたことがあるらしい。
それからまた20数年が経って、今度は僕がこの店に来ている。
若かった二人のことを少し考えてみる。今と何が変わっていて何が変わっていないのだろう。
そしてさらに20年後、この街は、僕は、どうなっているのだろうかと思う。
夜風は冷たく、上着が欲しいくらいだった。駅には長い列ができており、ちょうど電車がくるとこ
ろだった。ゆっくりとホームに入ってきて、止まる。街明かりが路面電車の車窓を流れていく。
流れ続ける。
こうして、僕の20歳の夏は終わっていく。
カメラを持ち歩くと、身の回りの世界に敏感になり、心までも繊細になるように思う。
見たものを記録してくれるだけでなく、見るものも変えてくれるように思う。
この夏、この街をこのカメラと歩けて本当に良かった。
プロフィール
早稲田大学写真部
太田晴一朗