朝香凪咲
旅行ガイドを中心に執筆。趣味は植物や動物のスナップ撮影で、気軽に持ち歩けるコンパクトな カメラとレンズを好む。株式会社三和オー・エフ・イー所属。
朝香凪咲の使用カメラ
朝香凪咲の使用レンズ
カメラレンズ界にその名を刻み続けるCarl Zeissは、レンズの歴史を語るうえで欠かせない存在。
Planar、Sonar、Distagonなど、数々の銘玉を生み出すCarl Zeiss製のレンズは、カメラを持つ人
なら誰もが一度は憧れたことがあるのではないでしょうか。
今回は数あるCarl Zeissレンズのなかから、万能レンズとして評価される「Carl Zeiss Batis 2/40
CF」に注目。本レンズの実力をスペックと作例から紐解き、その魅力を掘り下げていきます。
Carl Zeiss Batis 2/40 CFは、ZEISS社が開発したソニーEマウント用の単焦点レンズです。
高コントラストでクリアな描写、滑らかで美しいボケ感が特徴。使いやすい標準画角により、幅広い
シーンで活躍します。
■Carl Zeiss Batis 2/40 CFのスペック
焦点距離:40mm
絞り(F値):2.0~22 ※最短撮影距離の場合F2.8
レンズマウント:ソニー Eマウント
最短撮影距離:0.24m
最大撮影倍率:約0.3倍
レンズ構成:8群9枚
絞り羽根枚数:9枚
フィルター径:67mm
大きさ:最大径91mm× 全長93mm(レンズキャップを含む長さは106mm)
質量:361g
※ZEISS日本公式サイト参照
(https://www.zeiss.co.jp/consumer-products/photography/batis/batis-240cf.html)
焦点距離40mmは人の視野に近い自然な画角で、単焦点レンズでメジャーな35mmと50mmのちょうど中間にあたります。はじめはその独特な画角に戸惑うかもしれませんが、40mmの画角に慣れてくると、どんな撮影シーンでも楽しんで撮影できるようになりますよ。
レンズの名前にある「CF」はクローズフォーカス(Close Focus)の略で、最短撮影距離24cmの近接撮影に対応しています。フィルター径は汎用性の高い67mmであるのも嬉しいポイント。
さらに防塵・防滴に配慮した特別設計により、水場や砂埃の多いアウトドア環境でも安心して使用でき
ます。
これらのスペックを見ると、使いやすい万能レンズであることが分かります。もし一本だけレンズを持ち歩くとしたら、Carl Zeiss Batis 2/40 CFと答える人も多いのではないでしょうか。
1846年に創業したCarl Zeiss(カールツァイス)は、レンズ光学のパイオニアとして世界的に有名な名門ブランド。ZEISS社は長い歴史の中で、銘玉と呼ばれるレンズを数多く生み出してきました。
Carl Zeissの数あるレンズシリーズの中で、ソニーのフルサイズミラーレスカメラのために開発されたのがBatis(バティス)シリーズです。Carl Zeissのフルサイズ用レンズシリーズで唯一AFが使用できるモデルで、リアルタイムトラッキングなどの高性能なAFにも対応。
Batisは現在、2.8/18、2/25、1.8/85 2.8/135、そして2/40の5本がラインナップされています。
今回ご紹介するBatis 2/40 CFもまた、Carl Zeissならではの性能と描写が魅力。
あらゆる景色を美しく捉えるこのレンズは、ほかの標準レンズでは味わえない撮影の楽しさが体験できます。
〇Carl Zeiss Batis 2/40 CFの特徴をまとめると
・標準画角、近接撮影により幅広いシーンで活躍
・ソニーの高速・高精度な性能AFに対応
・高コントラスト、クリアな描写力、滑らかなボケ感が魅力
実際にレンズを詳しく見ていきましょう。
レンズをSONY α7S Ⅲに装着して、外観と操作感をご紹介します。
レンズの鏡胴は柔らかな曲線が上品な印象。シンプルな外観にZEISSの青いロゴが映えます。
ラバー製のフォーカスリングは独特な操作感で、回すときの滑らかさは他にはない感覚で癖になります。
レンズ銘板にはZEISSとDistagonの文字。DistagonはかつてCarl Zeissが一眼レフカメラ用の広角レンズのために設計した、レトロフォーカス(逆望遠型)構造のレンズの名称です。
Distagonの高い光学性能はミラーレスカメラにも理想的で、Distagonをもとに設計したレンズ構成により、高いコントラストと歪みの少ない描写が実現されています。
レンズ上部には有機ELディスプレイがついていて、合焦距離と被写界深度が表示されます。
この機能により、ピントの位置を数値で把握できるので、狙った場所にピントを合わせやすくなります。他のレンズにはないデジタルな見た目と機能が個性的で面白いですね。
レンズ単体で手に持ってみると、意外と大きさや重さを感じました。
「FE 40mm F2.5 G」と比べるとかなり大きくて重く、ソニー純正の「FE 35mm F1.4 GM」や「FE50mm F1.4 GM」と比べるとコンパクトで軽量です。携帯性の評価は普段使用するレンズによって分かれそうですね。
Carl Zeiss Batis 2/40 CFはスナップ、テーブルフォト、ポートレートなど、幅広いシーンを美しく切り取ります。
作例ではスナップをメインにさまざまな被写体を撮影してみました。作例に解説を交えながら、Carl Zeiss Batis 2/40 CFの魅力をお伝えしていきます。
Carl Zeiss Batis 2/40 CFは透明感のある青色の描写が高く評価されています。実際にこのレンズを使っていると、青色を主役にした写真を撮りたくなる気持ちが自然と湧いてきました。
東京スカイツリーと小さな飛行機雲を写したこの写真は、ほぼレタッチを加えず、撮影時のままの色味でRAW現像をしています。この作例のように、青色が鮮やかに写るのがBatisの強み。
黄色っぽい暖色系の色味になるソニー純正レンズにはない魅力です。
Carl Zeiss Batis 2/40 CFはコントラストの鮮やかさと階調の豊かさも魅力。明るく照らされる百日紅の花びらと、葉っぱに落ちる影とのメリハリが美しく表現されています。シャドー部分が粘り強く、コントラストのきつい環境下でも問題なく撮影できました。
開放F2.0のボケ感はとても滑らかで、立体感や遠近感が自然に描写されています。ピント面は開放とは思えないほどシャープで、背景の滑らかで柔らかいボケがより被写体を引き立てています。
レトロなインテリアがかわいらしい喫茶店で、青色のクリームソーダを注文しました。
Carl Zeiss Batis 2/40 CFはテーブルフォトにも最適で、椅子に座ったまま気負わずに撮影できます。
滑らかなクリーム、水滴のついたグラス、金属性のスプーンのどれも繊細に描写されていて、質感の表現力には隙がありません。爽やかなクリームソーダとひんやりとした食器の感触まで伝わってきます。
同じ喫茶店にて、ホットケーキにシロップをかけるシーンで一枚。Batisの質感の表現力を活かしたく、シロップでシズル感を演出してみました。滑らかに落ちるシロップの光沢まで丁寧に描写されています。
写真はバターにかかっているシロップにピントを合わせています。開放F2では被写界深度が浅く、パンケーキの表面が大きくボケてしまったので、少し絞ってF2.8で撮影しました。
作例のような近接撮影では、ピント面がかなりシビアになる点に気を付けたいです。
傘の先端部分を最短撮影距離で撮影。水滴やネオンのカクカクとした玉ボケが印象的な写真になりました。透明感のある寒色系の色味も出ていて、雨の日の空気感がしっかり出ています。
Carl Zeiss Batis 2/40 CFは、玉ボケが角ばるのが大きな特徴です。ここは人によって好みが分かれるポイントだと思いました。被写体との親和性が求められるので、撮影シーンによって玉ボケの演出に左右されることも。
作例はカクカクとした玉ボケと傘がばっちりとハマった一枚に。角ばった玉ボケを主役にしてみるのも面白いのではないでしょうか。
公園でハトの大行列を発見。近寄ってもまったく逃げるそぶりがなかったので被写体になってもらいました。ハトの群像感と羽根の繊細な模様をしっかりと写したかったので、F8に絞って撮影。
群像感や質感を出しつつ、背景は程よくボケた狙い通りの写真になりました。
ソニーAFトラッキング性能も良好で、写真の中央にいるハトの目にしっかりとピントを合わせ続けてくれました。ペットを撮影したいときも活躍しそうです。
8月下旬、夕方でもまだまだ日差しの強いなか、逆光でポートレートを撮影してみました。モデル
の輪郭に光が浮かび上がる「リムライト効果」で、ドラマチックな一枚に。フレア、ゴーストも出てお
らず、逆光下でも気持ちよく撮影できました。
焦点距離40mmの画角は、モデルの存在感を保ちながら、周辺の景色もしっかりと写すことがで
きます。モデルと少し離れた絶妙な距離感は、自然な表情を写しやすく、ポートレート撮影の楽し
さが一段と広がったように感じました。
夜間での撮影を検証するため、近所の小さなお祭りへ。この日は風が強かったので、シャッタースピードを早く、ISOを高く設定して撮影しました。α7S IIIのように高感度に耐性のあるカメラなら、夜間でもBatis 2/40 CFの階調表現と細かなディテール、質感表現を発揮することができます。
屋台の雰囲気を引き立てる鮮やかなコントラスト、滑らかなボケ感はまさにBatis。
深く考えず、サッとカメラを構えて撮影した写真の完成度に驚きます。
今回はSony α6400にも装着して数枚撮影してみたので、APS-C機での作例もあわせてご覧ください。
ここでは写真の説明を省き、フルサイズ機との違いに注目していただければと思います。
Carl Zeiss Batis 2/40 CFをAPS-C機に装着すると、35mm換算で焦点距離は60mm相当になります。
ファインダーを覗くと、フルサイズ機とはまた違った世界が広がっていました。
画角が狭くなったことで被写体の存在感が増し、見せたい部分によりフォーカスされます。
Carl Zeissならではのキレのある描写と滑らかなボケ感を演出しやすくなったように感じました。
Batisを60mm相当で使えるのは大きな魅力。撮影の選択肢として、APS-C機でも積極的に使っていける一本なのではないでしょうか。
どんなシーンでも活躍できるCarl Zeiss Batis 2/40 CFは、そばにいてくれると嬉しい相棒のような存在です。
実際に使ってみて、日々のスナップ撮影がいつも以上に楽しくなるレンズでした。
万能レンズと評価される理由は、やはりCarl Zeiss製の高いレンズ性能にあると思います。
長く頻繁に使っていけるので、レンズをあまり使い分けない撮影スタイルの人に強くおすすめしたい一本です。間違いなく買って後悔しないレンズなので、標準レンズを検討している人はぜひ手に取ってみてくださいね。
プロフィール
朝香凪咲
旅行ガイドを中心に執筆。趣味は植物や動物のスナップ撮影で、気軽に持ち歩けるコンパクトな
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