
今回紹介するのは、タムロンから発売されているソニーEマウント用の中望遠マクロレンズ「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」です。2024年10月に発表され、ソニーEマウントとニコンZマウント向けに展開されています。前モデルは2016年発売の一眼レフ用だったため、約8年ぶりのリニューアルであり、タムロン初のミラーレス専用マクロレンズとなります。
タムロンの90mmマクロといえば、通称「タムキュー」の愛称で多くの写真愛好家に親しまれてきました。1979年の初代発売以来、約45年もの長きにわたり進化を続け、プロ・アマチュアを問わず幅広い層に支持されています。
今回の新モデルは、これまでの高い解像度と美しいボケ味といった伝統をしっかりと継承しつつ、現代の撮影スタイルに合わせた最新技術を惜しみなく投入しています。柔らかくとろけるようなボケと、被写体を立体的に浮かび上がらせる描写、そして中央から四隅まで均一に高い解像力を維持する設計は、まさに“タムキューらしさ”の進化形といえるでしょう。
中望遠90mmという焦点距離は、マクロ撮影において非常に扱いやすいポジションです。
被写体との距離を適度に保ちながら、背景を整理しつつ被写体の質感を丁寧に描けるのが魅力です。
焦点距離が短いマクロだとどうしても被写体に寄りすぎて影が落ちたり、レンズが触れてしまうこともありますが、90mmならその心配がありません。最大撮影倍率1倍を保ちながらも、ワーキングディスタンスにゆとりがあり、昆虫や小花の撮影でも自然な距離感で構図を組むことができます。
また、このレンズはTAMRON Lens UtilityというPCおよびAndroid対応のアプリに対応しており、フォーカスセットボタンへの機能割り当てやファームウェア更新が可能です。三脚撮影時にはアプリ側からフォーカスを移動させられるため、レンズに触れずに精密なピント調整ができます。
さらにA-Bフォーカス機能を使えば、ピント位置を2点登録し、動画撮影時などにスムーズなフォーカス移動を行うことができます。

中望遠レンズらしくやや太めで存在感のある外観ですが、全長は比較的コンパクトに抑えられています。
レンズ前方には太めのフォーカスリングを配置。トルクは軽く、手持ちでもスムーズに回転し、人差し指一本で微調整が可能です。
左側面にはカスタマイズ可能なフォーカスセットボタンとフォーカスリミッターを搭載。
「FULL」「∞–0.7m」「0.7m–MOD」の3段階から選択でき、撮影距離に応じた使い分けができます。AF/MFの切り替えスイッチは搭載されていないため、必要に応じてカメラ側から操作します。
レンズ全長は126.5mm、最大径76.2mm、重量630g。見た目の割に重すぎず、α7IIIなどのミラーレスボディと組み合わせてもバランスは良好です。付属の筒型フードは逆付けでき、携行性にも優れています。さらにフードにはPLフィルターなどを操作できる小窓が設けられており、装着したままフィルターを回せるのは実用的です。フィルター径はタムロン共通の67mmで、複数のレンズ間でフィルターを共有できるのも嬉しい点です。

SONY α7IIIに装着すると、全体のバランスは良好。上面には「TAMRON」のロゴのみが刻まれ、
シンプルで洗練されたデザインです。マクロ撮影ではレンズ面が被写体に近づくため、レンズフードを外して使用した方が扱いやすい場面もありました。

使用カメラ:α7III

まずは定番の近接撮影から試してみました。F5.0で撮影した作例では、被写体との距離が非常に近いこともあり、背景が大きくとろけるようにボケています。
被写体の先端には微細なトゲ状の構造や花粉の粒まで確認でき、肉眼では見えない世界を覗き込むような感覚を味わえます。
ファインダー越しに新しい発見があり、マクロ撮影の醍醐味を感じました。

F2.8

F5.6
続いて、絞り値による変化を検証します。ピントは花の中心部奥に合わせ、F2.8とF5.6で比較しました。F2.8では極めて浅い被写界深度により、わずかに前後するだけでピントが外れるほどの繊細さです。
F5.6まで絞ると被写界深度が深くなり、周囲の花びらにもピントが回り始めます。
手持ち撮影では体のわずかな動きでピントがズレるため、三脚を使用しても風の影響を受けやすく、マクロ撮影の難しさを改めて実感しました。

さらに、玉ボケを狙った撮影も行いました。焦点距離が長く、F値が明るい本レンズでは、背景を探せば比較的容易に美しい玉ボケを作ることができます。
タムロン初の12枚羽根の円形絞りを採用しており、1:1〜1:4のマクロ域でも真円に近いボケを再現できるのが特徴です。非球面レンズを使わない構成のため、玉ボケに年輪状の模様が出にくく、極めて自然で柔らかなボケ描写を実現しています。



同じ構図で遠景から近景までピントを移動させてみると、AFの追従性は極めて滑らか。
最新のVXDリニアモーターによる高速・静音AFは静止画でも動画でもストレスを感じません。前ボケ・後ボケともに自然で、立体感のある描写が得られます。

マクロレンズというと「接写専用」というイメージがありますが、実際にはポートレートやスナップなど幅広いシーンで活躍します。今回、薄暗い中を歩く人物を撮影してみたところ、被写体は柔らかく浮かび上がり、光が心地よく写りました。ホワイトバランスをオートにするとややマゼンタ寄りの色味になりましたが、RAW現像で容易に調整可能です。

最後に最大撮影倍率のイメージを身近な1円玉を表現しました。
見慣れた1円玉もこのレンズで撮影すると、表面の細かい傷まで鮮明に確認できます。
タムロン90mm F/2.8 Di III MACRO VXDは、伝統と革新の両立を体現したマクロレンズだと感じました。従来の“タムキュー”らしい柔らかいボケと繊細な描写力はそのままに、最新のVXDリニアモーターによるAF性能や、TAMRON Lens Utilityによる高いカスタマイズ性が加わり、現代の撮影スタイルにしっかりと適応しています。静止画だけでなく、動画やハイブリッドな撮影環境でも安心して使える点は、これまでのマクロレンズにはない大きな進化です。
実際に撮影してみると、開放F2.8から高い解像力を発揮し、被写体の質感や立体感が丁寧に表現されます。背景はとろけるように滑らかで、非球面レンズを使わない光学設計のおかげか、玉ボケには年輪状のにじみがほとんど見られません。絞り羽根が12枚というのも特筆すべき点で、ボケの縁が極めて自然です。さらに、F5.6〜8あたりまで絞るとシャープさが一段と増し、風景や商品撮影などにも十分対応できる万能性を感じます。
また、操作性の面でも好印象です。フォーカスリングのトルク感は非常に滑らかで、指先の微妙な動きをしっかり反映してくれます。フォーカスリミッターの切り替えもわかりやすく、状況に応じてすぐに反応できるのが便利です。重量630gというバランスも絶妙で、長時間の撮影でも疲れにくく、手持ちマクロでも安定感があります。
全体を通して感じたのは、「撮るたびに新しい発見があるレンズ」ということです。肉眼では見えない世界を写し取るマクロ撮影の面白さを、初心者でもプロでも体験できます。タムロンの新しい“タムキュー”は、確かに時代に合った進化を遂げながらも、変わらない描写力を残した、実に完成度の高いマクロレンズだと思います。
アールイーカメラは、 「カメラでみんなをHappyに、そして写真文化を次の世代へ」をテーマに、 中古カメラ・レンズの販売・買取を行うカメラ専門店です。 カメラを通じて人々に喜びを届けること、 そして写真文化の魅力を次の世代へとつなげていくことを大切にしています。 店舗・オンラインショップ・マガジンを通じて、 写真を愛するすべての人に向けて、 カメラの魅力や新しい発見を発信しています。
アールイーカメラの使用カメラ
アールイーカメラの使用レンズ
アールイーカメラは、 「カメラでみんなをHappyに、そして写真文化を次の世代へ」をテーマに、 中古カメラ・レンズの販売・買取を行うカメラ専門店です。 カメラを通じて人々に喜びを届けること、 そして写真文化の魅力を次の世代へとつなげていくことを大切にしています。 店舗・オンラインショップ・マガジンを通じて、 写真を愛するすべての人に向けて、 カメラの魅力や新しい発見を発信しています。
アールイーカメラの使用カメラ
アールイーカメラの使用レンズ