朝香凪咲
旅行ガイドを中心に執筆。趣味は植物や動物のスナップ撮影で、気軽に持ち歩けるコンパクトな カメラとレンズを好む。株式会社三和オー・エフ・イー所属。
朝香凪咲 の使用カメラ
高級コンデジ、オールドコンデジのブームが続く中、カメラ好きにとって見逃せないのがSIGMA DP シリーズ。扱いに一癖も二癖もあるカメラですが、唯一無二の描写力は多くのカメラマンを魅了してきました。
今回は数あるSIGMA DPシリーズの中から「SIGMA DP2 Merrill」をご紹介。SIGMA DP2 Merrillでしか撮れない写真の魅力を、作例とともにお伝えします!
SIGMA DP2 Merrillは2012年に登場したレンズ一体型のコンパクトデジタルカメラ。標準レンズを搭載し、センサーによる優れた解像度が特徴です。
SIGMA DPシリーズの始まりは2008年に発売されたSIGMA DP1。
その後はマイナーチェンジモデルなどさまざまな後継機が登場します。第2世代となるMerrillはより解像度に特化。
Merrillに採用されているセンサーは、DPシリーズで最も解像度が高く、SIGMAのカメラの中でも一目置かれる存在です。
Merrillには1〜3のナンバリングがあり、1が広角、2が標準、3が望遠レンズを搭載しています。
SIGMA DP2 Merrillの仕様は以下の通りです。
レンズ構成:6群8枚
焦点距離:30mm ※35mm判換算:約45mm
F値:F2.8~F16
絞り羽根枚数:9枚
最短撮影距離:28cm(LIMITモードは1m)
最大撮影倍率:1:7.6
シャッター速度:1/2000秒~30秒(最高速度は絞りによって変化)
撮像素子:FOVEON X3ダイレクトイメージセンサー(CMOS)
センサーサイズ:23.5×15.7mm(APS-Cセンサー)
有効画素:約4600万画素
大きさ:幅121.5mm ×高さ66.7mm×59.2mm奥行
質量:355g(電池とカードを除く)
(SIGMA公式HP参照)
レンズは焦点距離30mm、35mm換算で約45mmの標準画角の単焦点。F値は開放2.8で程よいボケ感を楽しめます。
シャッタースピードの最高速度はF値によって異なり、F2.8〜F3.5は1/1250秒、F4.0〜F5.0は1/1600秒が上限で、F5.6以上は1/2000秒で撮影が可能です。
スペックで特筆すべきはFOVEON X3ダイレクトイメージセンサー(通称FOVEONセンサー)について。
FOVEONセンサーは米国のFoveon社が開発したセンサーで、SIGMAの一部カメラに採用されているセンサーです。
FOVEONセンサーについての詳しい内容はこのあと詳しくご説明していきます。
SIGMA DPシリーズのカメラは、三層構造の垂直色分離方式を採用したFOVEON X3ダイレクトイメージセンサーを搭載しています。
一般的なセンサーは1つの層のみでRGBの3色を記録しますが、FOVEONセンサーはRGBが3つの層に分かれていて、3つのセンサーが光の波長をすべて記録します。
センサーが3層あることで画素数は3倍に。これらの仕組みによって、一般的なカメラのセンサーより繊細な解像感や色の表現ができます。
FOVEONセンサーの弱点はデータ量とノイズです。三層構造によって一般的なセンサーと比べてデータ量は3倍となり、それぞれの層でノイズが発生します。色感度が高いことでノイズの影響が大きくなってしまうので、暗所での撮影が難しくなります。
FOVEONセンサーで撮影したRAWデータはX3Fというファイル名で保存されます。
X3FファイルはSIGMA専用の編集ソフトであるSIGMA Photo Proを使って現像します。
基本的な操作は他の編集ソフトと同じですが、SIGMA Photo Proにはトリミング、傾き補正がありません。
現像したい画像をクリックすると新しいタブが開き、編集できる画面に切り替わります。
右上にあるアイコンをクリックすると調整画面が表示され、明るさや色味を調節できますよ。
SIGMA DP2 Merrillは黒一色で統一されたシンプルなデザイン。10年以上前のカメラですがあまり古さを感じないのが魅力です。
カメラはやや大きめで、ポケットには入りきらない絶妙なサイズ。持ち歩くときはハンドストラップやネックストラップを使うのがよいでしょう。
モニター側のUIは必要最低限の文字やマークを入れた無駄のないデザイン。
シャッターを押すとMENUボタン下の赤いランプが数秒間点灯し、画像の保存が完了するとランプが消えます。点灯中は画像の確認や撮影ができません。
上部には、電源(POWER)ボタンとMODEボタン、シャッターボタンとダイヤル、ホットシューがあ
ります。電源を入れると電源ボタンが緑色に光り、スリープ状態だと点滅します。
底面には三脚用のねじ穴、バッテリーとSDカード室。バッテリーとSDカード室の蓋は、開閉時にパチッと音がします。
扱いの難しさが多く語られているSIGMA DP2 Merrill。実際に使用してみて気になる点がたくさん
あったので、まずは悪い点からご紹介します。
SIGMA DP2 Merrillの悪い点をざっくりとまとめると、撮影と現像に手間がかかること、被写体を選ぶことの2点です。
カメラのAFは約3秒と遅め。シャッターを押した後、画像の確認や次の撮影を行うまで数秒かかります。
バッテリーは一度の充電で100枚ほどが限界。手振れ補正もありません。利便性を求める人にとってはストレスに感じる点が多いでしょう。
FOVEONセンサーの弱点であるデータ量とノイズの影響も大きく、RAWデータは一枚につき約40〜50MB、ISOは800でノイズが目立ち始めます。
SIGMA DP2 Merrillで撮影した写真は、撮って出しのJPEGデータよりRAW現像を行うのがよいとされています。撮って出し写真は好みにもよりますが、SIGMA Photo Proで現像作業が必要になるでしょう。
たくさんの問題点を上げましたが、それでもSIGMA DP2 Merrillを使いたくなるほどの良い点は、
コンデジとは思えない圧倒的な解像度、豊かな色調による美しい描写です。
ここぞというときに完璧にハマった一枚の美しさはこのカメラの何よりも大きな魅力。
被写体とじっくり向き合い、一枚一枚の撮影に手間と時間をかけることの楽しさを実感できるカメラです。
ここからは作例とともにSIGMA DP2 Merrillの魅力をお伝えしていきます。
カラー写真とモノクロ写真に分けてご紹介するので、ぜひご覧ください。
まずはSIGMA Photo ProでRAW現像をしたカラー写真からご紹介します。カメラの解像度や階調表現、ノイズについて見ていきましょう。
SIGMA DP2 Merrillは、被写体の形や模様、質感を隅々まで繊細に描写するカメラ。
被写体の表情をありのままに写すことができます。
写真は日差しの強い日に撮影した花菖蒲です。花弁と水面の反射光が白飛びしてしまったので、現像時に調整しました。
FOVEONセンサーは明暗差の激しい場所が弱点。現像作業ではまず露出を下げ、Fill Light機能を使って暗い場所を持ち上げるのが基本な流れになります。
花菖蒲の葉っぱだけにフォーカスした写真です。F8まで絞ったときの解像度はすさまじく、
葉っぱの輪郭線や葉脈は驚くほど繊細に写っています。
水と土の描写力も思わず息をのむほど。
コンデジでここまで解像度の高い写真が撮れるのは、SIGMA DP2 Merrillだけではないでしょうか。
FOVEONセンサーは色の階調表現がとても豊か。曇り空の日に道端の葉っぱと鉄板の撮影してみると、色のグラデーションがきれいで滑らかに写りました。
曇り空や夕方など、光が穏やかな環境ならカメラが持つ色調を最大限発揮できそうです。
都内某所。夜に三脚を使い長時間露光で撮影してみました。この日は小雨が降っていて、道路が濡れていたことでネオンがより映えました。
ISO400で撮影しましたが、拡大すると若干輝度ノイズが見られます。もう少し明るい場所であればISO100~200まで下げられそうです。
【カラーモード】
SIGMA DP2 Merrillにはカラーモードが全8種類あり、シーンに合わせて好きな色味に設定できます。
ここからはカラーモードで撮影した写真をご紹介。すべてデータをJPEG FINEに設定し、露出などの補正を行いました。
◎スタンダード(STD.)
見たままの色味にもっとも近くなる基本的なカラーモードですが、撮影環境や被写体によっては色が転んでしまうことがあります。SIGMA DP2 Merrillは空の描写が特に美しく、作例のような夕空は見たままの色を表現できていると感じました。
◎ビビッド(VIVD)
ビビットは色味が鮮やかになり、陰影がはっきりと写ります。カラフルな被写体を印象的に写すことができますよ。
◎ニュートラル(NTR.)
ニュートラルは色味が抑えられて柔らかい雰囲気に。ごちゃごちゃした背景の色を抑えたいときに使うのもおすすめです。
◎ポートレート(PORT.)
ポートレートモードでは人物の肌色が滑らかになります。他のカラーモードでは肌色が不自然になってしまうことがあるため、ポートレート撮影はこのモードに設定するのがよいでしょう。
◎風景(LAND.)
風景写真に向いているモードで、緑色と茶色の色味がはっきりと出ます。自然の多い場所ではより印象的な写真になりますよ。
◎白黒(B/W)
モノクロ写真になるカラーモードです。SIGMA Photo ProはRAWデータのカラー写真をモノクロ写真にすることもできますが、白黒モードを使えば簡単にモノクロ写真が撮れます。
◎セピア(SEPIA)※JPEG(FINE、NORM、BASIC)のみ
どこか懐かしい雰囲気になるセピアモード。古びたものを撮影したくなります。RAW、RAW+JPEGに設定しているとモード設定ができません。
◎FOV Classic Blue(FovB.)
FOV Classic Blueは青色が鮮やかなクラシック調の色味に。全体的に黄味が強く、青色以外は不自然な色になる点に注意。特に赤色はオレンジ色のようになります。
ここからはモノクロ写真をご紹介。SIGMA DP2 Merrillによる解像度と質感の表現力は、モノクロで真価を発揮します。作例の写真はすべてRAWデータで撮影し、SIGMA Photo Proのモノクローム機能を使って現像しました。
雨上がりに生垣を覗いて撮影。葉っぱと水滴だけのシンプルな被写体ですが、SIGMA DP2 Merrillの描写力によって立体感や奥行きを感じる一枚になりました。
海岸沿いでポートレートを撮影中、誰かが作った砂の城を見つけました。
遠くに映るビル群と砂の城との対比がお気に入り。
色がないモノクロ写真だからこそ、ストーリー性がグッと深まったように感じます。
少しさびれた窓柵。一つだけ塗装がはがれているのが目にとまりました。普段は気にしないようなものも、モノクロだと造形の面白さに気づきます。
高架下の鉄骨を撮影。無機質な人工物はモノクロにすることで、よりかっこよくなりますね。
FOVEONセンサーの弱点である明暗差が激しい場所ですが、陰影の濃さを活かせばシルエットが印象的な写真になりますよ。
今ではあまり使われなくなった、綺麗なままの公衆電話。緑色というイメージが強い公衆電話ですが、モノクロだと質感や細かい形までじっくり観察でき、意外と知らなかったものまで見えてくるのが面白かったです。
SIGMA DP2 Merrillを使っていると、普段は気にすることのない景色が目に留まり、撮影したくなりました。
今までにない新しい視点が見つかり、撮影の幅が広がったように感じます。
環境や被写体の選び方など、カメラへの理解と技量が試されるので、撮影のステップアップとして使ってみるのも面白いのではないでしょうか。
SIGMA DP2 Merrillはピーキーな性能に心惹かれるカメラ。扱いにくさが気にならなくなるほど、どのカメラにも真似できない写真に魅了されます。写真が簡単に撮影できてしまう現代だからこそ、SIGMA DP2 Merrillの描写力をとことん追及してみませんか。
プロフィール
筆者:朝香凪咲
旅行ガイドを中心に執筆。趣味は植物や動物のスナップ撮影で、気軽に持ち歩けるコンパクトな
カメラとレンズを好む。株式会社三和オー・エフ・イー所属。