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私が初めてこの企画を耳にしたのは2024年8月のことでした。
大学一年の時から写真部に所属していましたが、このように機材を借りる機会も、撮った写真に対して文章を考え、ひとつの記事をつくるという機会も、どちらも私にとっては初めてで、せっかくのチャンスだからと思い今回参加させていただきました。
当初私はコンパクトなフィルムカメラを借りたいとだけ、ただぼんやりと考えていいました。というのも、私はこれまでFujifilm XT-2とNikon FE、二台の一眼レフカメラをずっと使ってきました。
そのため、もっと気軽に撮影できる小さめのカメラ探したい、という思いを前から持っていたんです。
スタッフの方は1時間近く相談に乗ってくださいました。スナップに挑戦したいという私の希望に対して、最終的に提案してくださったのはLeica M6とLeica SUMMICRON-M 35mm f2の組み合わせ。
女性の私の手にもしっかりと収まり、一度手に取ってすぐ、このカメラにしようと決めました。
なによりも、一介の学生ではまず手にすることができないような機材です。またとない機会だと思い、一週間必死で作品を撮りました。
私はもともと、写真はどこか遠出や旅行に行ったときに、またはポートレートのために、「よし、今から写真を撮るぞ」と毎回意気込んでから撮ることが多かったんです。
そのため日常を切り取るスナップという撮影スタイルは、ほとんど経験がありませんでした。
しかしながらLeica M6との出会いは、これまでとは全く違う、全く新しい撮影体験を
私にもたらしてくれました。
私のようなスナップ初心者でも、簡単に日常を別視点から切り取ることができる、そんなことが可能なカメラだと思います。
機材を借りたのは9月上旬。酷暑の日々が過ぎて、秋がすこし顔を出し始めた週末。
撮影のテーマは、家の近所、代々木公園でのスナップにしました。
フィルムの最初の一枚は、ピントの甘い写真でした。
はじめのうち、私は初めて使うレンジファインダーをうまく使いこなせなかったんです。
もしデジタルでこの写真を撮ったなら、私は「あ~、失敗した;」と思ってすぐに写真を削除していたと思います。
しかし、フィルムの一枚にはそもそも削除という選択肢がありません。撮った瞬間の感覚、判断、そして偶然がそのまま結果として残ります。フィルム写真には「失敗」という概念すら違って映るのだと。そして失敗した写真の中にこそ、何かしらの魅力や意味が潜んでいることがあるのです。
思い通りにいかなかったからこそ、その写真はそのままの「今」を写してくれた。
自分の未熟ささえも肯定してくれる。Leica M6は私に、新たな人生観を与えてくれました。
スタッフの方に勧められて、初めてノーファインダー撮影を試してみた2枚です。
視点をファインダーに縛られない自由さが一気に広がりました。公園内を歩きながら、何かに狙いを定めることもなく、気まぐれにシャッターを押す。
ノーファインダー撮影で得られるのは、完璧な構図や計算された一枚ではありません。むしろ、自分がコントロールできない瞬間の美しさや、人間の意図を超えた世界の魅力がそこに現れるんじゃないかなと思います。
Leica M6はその繊細な解像力で、私たちが普段見落としている些細な瞬間までを確かに写真に残してくれます。
このカメラと過ごした一週間は、短いながらもとても濃密で特別な時間でした。まるで、新しい感覚の窓が開かれたように、日常の一瞬一瞬が違う輝きを持ちはじめました。写真とは対象を捉えるだけではなく、自分自身がその瞬間とどう向き合ったかの記録でもあるということを、肌で感じました。たった一週間の付き合いだったのに、このカメラと過ごした時間は、写真を撮るという行為に対する私の価値観を、ほんの少し軽くしてくれたように感じます。
実はM6を返却した後、自分で新しいコンパクトフィルムカメラを購入しました。
手に収まる軽やかなサイズ感が、なんだか新しい冒険の始まりを予感させてくれます。
もしまたLeica M6を手にする機会があれば、もっと多くの世界をこのカメラを通して見てみたい――そんな思いを胸に、私はフィルムを巻き上げ、次の一枚、新しい世界との出会いに向けて今日も進み続けます。
プロフィール:
早稲田大学写真部
早稲田大学 文化構想学部 三年
田中 怜 (たなか れい)
最近の悩みは、
紅茶派とコーヒー派を行ったり来たりしていること。
好きな歌手はMr.Children。